避雷針の法規とJIS

日本では外部雷に対して、法的に避雷針を設置する義務があります。

理由としては、

  1. 外部雷の被害は、建物や人体に直接雷が落ちるなど大変危険な為
  2. 高い所には特に雷が落ちやすい為
  3. 危険物を扱っている建物に雷が落ちた場合、爆発する危険性がある為

    が挙げられます。

    建築基準法 20メートルを超える建物には避雷針を設置しなければならない。
    消防法 危険物を取り扱う建物・貯蔵タンクに避雷設備を設置しなければならない。
    火薬取締法施行規則 :火薬類の製造施設には避雷設備を設置しなければならない。

     

    避雷設備は JIS に適合していることが条件です。

    建築基準法と消防法に関しては【「避雷設備」は「 JIS 」に適合する構造であること 】と定められており、JIS は非常に重要です。

    法律により雷保護が義務化されていますが、その保護の方法についてのルールを定めたものがJISです。
    JISには雷保護に必要な設計方法や材料の素材、接地の方法、数などが記載されています。

    法規 避雷設備の設置 避雷設備の規定
    建築基準法 高さ20mを超える建物へ設置 避雷設備はJIS A 4201 規格とする
    消防法 指定数量の10倍以上の危険物を扱う建物へ設置 避雷設備はJIS A 4201 規格とする

     

    避雷設備に関する JIS の変化

    旧JIS JIS A 42011992 1952年に最初に制定、 1992 年までに数回の改正が加えられた【IEC 規格以前 】 日本規格

    1990年に雷保護の国際規格 IEC 61024 1 が初めて制定され、改定

    新JIS JIS A 42012003 今回の改正では日本工業規格を国際規格に整合させるためIEC 61024 1 を基礎として用いた JIS A 4201 まえがき抜粋) 国際規格
    新JIS JIS Z 9290-3 JIS A 4201 2003を引き継ぐ、最新の IEC 規格によるもの 国際規格

     

    旧JIS と新 JIS の主な違い

    旧JIS

    雷保護の国際規格( IEC )が制定される前のものです。
    避雷設備の仕組みや構造、材料、サイズなどを細かく規定。日本独自の昔からある規格。
    【避雷設備自体を規定 】

    新JIS

    雷保護の国際規格が制定されたことをうけ、 JIS を IEC に整合させるために改正されたものです。
    環境や建築物に応じて保護レベルを設定し、保護物に応じた避雷設備を規定。
    【雷からの保護・避雷性能を重視した規定 】
    雷保護に関する専門家の研究を基にした内容であり、国際規格。

    旧JIS と新 JIS では、内容に違いがあります。
    新JIS により旧 JIS は廃止となりましたが、法律上は旧 JIS による避雷設備も可能としているため、日本では雷保護規格に ダブルスタンダード が存在しています。
    ※ただし、新旧 JIS の組み合わせの施工はできません

     

    JISとIEC

    IEC (国際電気標準会議)とは

    各国の代表的な標準化機関によって組織される、国際的な標準化を行う機関です。(※2018 年時点で会員 84 か国 IEC の HP より)

    IEC規格 とは、 IEC が制定する 国際規格 のことです。
    日本からはJIS を制定する日本工業標準調査会( JISC )が参加しています。
    国家規格などを制定・改訂する際に国際規格と整合性を持つことが義務付けられ、
    IEC 規格と JIS との整合化が図られています。

     

     

    JIS – IEC 対応表

    JIS 制定年度 名称 対応IEC 序文抜き出し
    JIS A 4201 1992 1992 建築物等の避雷設備(避雷針) 対応IEC なし

    旧 JIS は IEC 制定以前の日本独自の規格

    JIS A 4201 2003 2003 建築物等の雷保護 61024-1 IEC61024-1 を翻訳し、技術的内容を変更して作成した日本工業規格である
    JIS Z 9290-1 2014 雷保護ー 第1部:一般原則 62305-1 IEC62305-1 を基に技術的内容及び構成を変更することなく作成した日本工業規格である
    JIS Z 9290-3 2014 雷保護ー 第3部:
    建築物等への物的損傷及び人命の危険
    62305-3 IEC62305-3 を基とし技術的内容を変更して作成した日本工業規格である
    JIS Z 9290-4 2016 雷保護ー 第4部:建築物等内の電気
    及び電子システム
    62305-4 IEC 62305-4 を基に技術的内容及び構成を変更することなく作成した日本工業規格である

     

    IEC の雷保護規定の変化

    IEC61024-1 1990年 IEC最初の雷保護における規定

    その後、雷の研究が進むにつれて随時改定が進む

    IEC62305 シリーズ規格へ 2006年 さらに改定が進む(IEC 62305 1 Ed.2 など)
    技術の進歩や環境の変化に応じて規格の改定

     

    JIS 建物の分類と保護レベルの大まかな例

    消防法「危険物の規制に関する規則の一部を改正する省令等の施行について」(平成 17 年 1 月 14 日)
    『危険物施設の保護レベルは原則としてⅠとすること。
    ただし、雷の影響から保護確率を考慮した合理的な方法により決定される場合にあっては、保護レベルをⅡとすることができる。 』

    危険物施設以外では、建物の種別により保護レベルが決められているなどの、法的な決め事はありません。

    ただし、申請図の依頼段階で、施主か設計事務所からのレベル指定がある場合があります。
    それ以外の場合は先方に確認し、基本はレベル で設計されることがほとんどです。

     

    JIS 保護レベル別の設計

    保護レベル

    保護レベルとは「雷保護システムが雷の影響から被保護を保護する確率」です。
    保護レベルは4段階に設定されています。

    保護レベル レベルⅠ レベルⅡ レベルⅢ レベルⅣ
    保護効率 98% 95% 90% 80%
    雷撃距離 20m 30m 45m 60m

    最も高い保護効率はレベルの 98 %。
    これは、全雷のうち98% の雷からは保護できるけれども、 2% の雷からは保護できないという意味です。
    最高ランクのレベルでも完全保護ではありません。最低基準は、レベル の 80% です。

    雷撃距離とは
    雷撃距離は大きな球体のようなものであると考えられています。

    JIS 保護レベル別の設計

    最高レベルでも保護効率が 100% ではない理由

    保護レベル レベルⅠ レベルⅡ レベルⅢ レベルⅣ
    最大雷撃電流 200kA 150kA 100kA 100kA
    最小雷撃電流 2.9kA 5.4kA 10.1kA 15.7kA
    保護効率 98% 95% 90% 80%

     

    レベルⅠで保護する雷撃電流の範囲は 【 2.9kA 200kA 】 です。
    この雷撃電流の範囲外の雷からは保護できないという事です。

    • 2.9 kA以下の雷撃電流が発生する確率が 1%
    • 200 kA 以上の雷撃電流が発生する確率が 1%

    よって2% の雷からは保護できず、保護効率が 98% となります。

    他のレベルも同様の考え方で保護効率が計算されています。
    この計算となる根拠は下図グラフとなります。(一般社団法人日本雷保護システム工業会より回答)

     

    JIS 保護レベル別の設計

    保護レベルの決め方

    避雷設備を設置する建物の保護レベルを決めます。
    建物の危険度、重要度、損失の大きさなどから総合的に判断し、建築設計者らと相談の上決定します。

    保護レベル別の設計

    決定した保護レベルに応じた避雷設備の設計をします。保護レベルを選定することで決まる条件には

    • 保護効率
    • 回転球体法の半径
    • 保護角法の保護角
    • メッシュ法のメッシュ幅
    • 引き下げ導体間の平均間隔
    • 保守点検間隔

    などがあります。

    注意

    保護レベルⅠを選択したら、保護レベル の設計条件に従わなければなりません。
    使用する避雷設備の機能が【 優れている・劣っている 】からといって、設計条件を変えることはできません。

     

    設計方法は3種類

    設計方法は

    1. 回転球体法
    2. 保護角法
    3. メッシュ法

    の3通りです。

    この3つの中から選択します。どの方法を使うかは、設計士と相談して決定します。

    【保護レベルに応じた受雷部の配置 】

    JIS 保護レベル別の設計

    設計方法

    ①回転球体法 現在の雷放電理論からみて最も妥当な方法です (JIS A 4201:2003 解説)

    保護レベルに応じた回転球体法の半径を用い円を描きます。

    被保護建物の受雷部(突針含む)と地面に、その円が接するように配置します。
    円で囲むような状態になります。

    建物と円が接する部分には、受雷部システム を設置します。
    (突針や水平導体【 水平導体:雷撃を受け止める線のようなもの 】)

    円で囲まれた内側の、緑の部分が保護エリアとなります。

    保護レベル 回転球体法の半径
    20m
    30m
    45m
    20m 60m

     

    ②保護角法

    避雷針の上端から、地表に垂直に下した直線に対して保護角度を作成し、その内側が保護エリアになります。
    保護したい建物が保護角度内におさまるように設計します。

    保護レベル 20m

    (地表から受雷部までの高さ)

    30m

    (地表から受雷部までの高さ)

    45m

    (地表から受雷部までの高さ)

    60m

    (地表から受雷部までの高さ)

    60m超

    (地表から受雷部までの高さ)

    25°
    35° 25°
    45° 35° 25°
    55° 45° 35° 25°

    避雷針を含む建物の高さが雷撃距離よりも大きい時は、保護角法の考えは成立しないため、回転球体法かメッシュ法の選択となります。
    保護角法は、受雷部の高さが雷撃距離より小さい時だけ、回転球体法と等価な保護範囲を得ることができます。
    保護範囲を算定する基本はあくまで回転球体法です。(JIS 4201:2003 解説)
    しかし、回転球体法と比べると設計が分かりやすく比較的簡単です。

     

    ③メッシュ法

    メッシュ導体の導線で、雷撃を受け止める仕組みです。
    メッシュ導体で覆われた部分は保護されていることになります。
    メッシュの幅は保護レベルに応じて表の通りとなります。

    保護レベル メッシュ幅(m)
    10
    15
    20

    他の設計方法と比べると、コストがかかります。
    避雷針を立てることで外観が損なう場合にこの方法を用いるなど、建物により選択されることがあります。